人のいうことには耳も借さぬというような突っ放した態《てい》で、太いような細いようなカンの違ったウラ声だった。――私は次々と自分の容子を今更鏡に写して見るにつけ、人の反感や憎念を誘うとなれば、スッポンや法螺忠に比ぶべくもなく、私自身としても、先ず、こやつ[#「こやつ」に傍点]を狙うべきが順当だったと合点された。こやつが担がれて惨憺たる悲鳴をあげる態を想像すると、そこに居並ぶ誰を空想した時よりも好い気味な、腹の底からの爽々《すがすが》しさに煽《あお》られた。それにつけて私はまた鏡の中で隣の御面師を見ると、狐のような不平顔で、はやく金をとりたいものだが自分がいい出すのは厭で、私をせき立てようといらいらして激しい貧乏ゆすりを立てたり、キョロキョロと私の横顔を窺ったりしているのが悪寒を持って眺められた。彼はこの卑怯《ひきょう》因循《いんじゅん》な態度で終《つ》いに人々から狙われるに至ったのかと私は気づいたが、不断のように敢《あえ》て代弁の役を買って出ようとはしなかった。そして私はわざとはっきりと、
「水流舟二郎君、僕はもう暫《しばら》くここで遊んでゆくから、もし落着かないなら先へ帰り給えな。」と
前へ 次へ
全33ページ中31ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング