いった。
「ミナガレ舟二郎か――こいつはどうも打ってつけの名前だな。あはは。」と法螺忠が笑うと、スッポンが忽ち聴耳《ききみみ》を立てて、え?え?え? と首を伸した。すると法螺忠は、後架《こうか》へでも走るらしく、やおら立上ると、
「あいつは一体生意気だよ。碌々《ろくろく》人のいうことも聞かないで偉そうな面ばかりしてやがら、よっぽど人を馬鹿にしてやがるんだろう。何だい、独りでオツに澄まして、何を伸びたり縮んだりしてやがるんだい。自惚れ鏡が見たかったら、さっさと手前《てめ》えの家へ帰るが好いぞ。畜生、まごまごしてやがると、俺らがひとりで引っ担いで音をあげさせてやるぞ。」などと呟き、大層|癇《かん》の高ぶった脚どりであった。



底本:「ゼーロン・淡雪 他十一篇」岩波文庫、岩波書店
   1990(平成2)年11月16日第1刷発行
初出:「文藝春秋」
   1934(昭和9)年12月
入力:土屋隆
校正:宮元淳一
2005年9月29日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、
前へ 次へ
全33ページ中32ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング