と睨めていた。私は何げなくその視線を脱して、スッポンの後ろに掛っている柱鏡を見ていると、間もなく背後から水を浴びるような冷たさを覚えて、そのままそこに凝固してしまいそうだった。鏡の中に映っている自分の姿は、折角人がはなしかけてもむっとして、自分ひとりが正義的なことでも考えているとでもいう風なカラス天狗じみた独りよがりげな顔で、ぼっと前を見詰めていた。顔の輪郭が下つぼみに小さい割に、眼とか鼻とか口とかが厭に度強《どぎつ》く不釣合で、決して首は動かぬのに、眼玉だけがいかにも人を疑るとでもいう風に左右に動き、折々一方の眼だけが痙攣《けいれん》的に細くさがって、それにつれて口の端が釣上った。小徳利のように下ぶくれの鼻からは鼻毛がツンツンと突出て土堤《どて》のように盛上った上唇を衝き、そして下唇は上唇に覆われて縮みあがっているのを無理矢理に武張《ぶば》ろうとして絶間なくゴムのように伸したがっていた。法螺忠がさっきから折に触れてはこちらの顔を憎々しそうに盗み見るのは、別段それは彼の癖ではなく、人を小馬鹿にするみたいな私の面つきに堪えられぬ反感を強いられていたものと見えた。そして私のもののいい方は、
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