、歯噛みしたりして画策に夢中だった。――稀に飲まされた酒なので、好い加減に酔って来そうだと思われるのに一向私は白々としているのみで、頭の中にはあの壮烈な騒ぎの記憶が次々と花々しく蘇《よみがえ》っているばかりだった。
「どうでしょうね。代金のことは切り出すわけにはゆかないもんでしょうかな。まさか振舞酒で差引こうって肚じゃないでしょうね。」
御面師がそっと私に囁いた。
「そんなことかも知れないよ。」と私は上《うわ》の空で答えた。それより私は、好くもこう憎体《にくてい》な連中だけが寄集って自惚事を喋《しゃべ》り合っているものだ、こんなところにあの一団が踏み込んだらそれこそ一網打尽の素晴しさで後《あと》くされがなくなるだろうに――などと思って、彼らの様子ばかりを見守ることに飽きなかった。その時スッポンが私たちの囁きを気にして、え?え?え? と首を伸し、御面師の顔色で何かを察すると「まあまあお前方もゆっくり飲んでおいでよ。うっかり夜歩きは危ねえから、引上る時には俺たちと同道で面でもかむって……」
「あははは。ためしにそのまま帰って見るのも好かろうぜ。」と法螺忠は笑い、私と御面師の顔を等分にじっ
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