狙われるのは、さまざまな所業の不誠実さからだったが、私は他のあらゆる人々の姿を思い浮べても、彼らほどその身振風体までが、担がれるのに適当なものを見出せなかった。彼らの所業の善悪は二の次にして、ただ漫然と彼らに接しただけで、最早充分な反感と憎しみを覚えさせられるのは、何も私ひとりに限ったはなしではないのだ、などと頷《うなず》かれた。いつかの万豊のように、スッポンや法螺忠が担ぎ出されて、死物狂いで喚き立てる光景を眺めたら、どんなにおもしろいことだろう、親切ごかしや障子の穴の猿どもがぽんぽんと手玉にとられて宙に跳上《はねあが》るところを見たら、さぞかし胸のすくおもいがするだろう――私は、彼らの話題などには耳もかさず、ひたすらそんな馬鹿馬鹿しい空想に耽っているのみだった。
「……俺アもうちゃんとこの眼で、この耳で、繁や倉が俺たちの悪い噂を振りまいているところを見聞《みきき》しているんだ。」
「ほほう、それあまたほんとうのことかね。」
「奴らの尻おしが藪塚《やぶづか》の小貫林八だってことの種まであがっているんだぜ。」
「林八を担がせる手に出れば有無はないんだがな。」
 彼らは口を突出し、驚いたり
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