した。そして、うつらうつらと首を振っていた。彼の眼玉は凹《くぼ》んだ眼窩《がんか》の奥で常々は小さく丸く光っているが、人が何かいうのを聞く度に、いちいち非常に驚いたという風に仰天すると、たしかにそれはぬっと前へ飛出して義眼のように光った。その様子だけはいかにも肝に銘じて驚いたという恰好だが、本心はどんなことにも驚いてはいない如く、眼先はあらぬ方をきょとんと眺めているのだ。多分彼は、真実の驚きという感情は経験したためしはないのではなかろうか。――頤骨がぎっくりと肘《ひじ》のように突き出て、色艶は塗物のような滑らかげな艶《つや》に富み、濃褐色であった。額が木魚のようなふくらみをもって張出し、耳は正面からでも指摘も能わぬほどピッタリと後頭部へ吸いつき、首の太さに比較して顔全体が小さく四角張って、どこでもがコンコンと堅い音を立てそうだった。また首の具合がいかにも亀の如くに、伸したり縮めたりする動作に適して長くぬらくらとして、喉の中央には深い横|皺《じわ》が幾筋も刻まれていた。え?え?え? と横顔を伸して来る時に、ふと真近に見ると眉毛も睫毛《まつげ》も生えていないようだった。
 無論彼らが村人に
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