包みを直して幾度も立上ったが、忠吉と金蔵が巧みになだめた。
「田舎の人は、ほんとうに人が悪い。うっかりいうことなどを信じられやしない。」
 私もそんなことをいった。
「そ、それが、お前さんの災難のもとだよ。折角人のいうことに角を立てて、むずかしい理窟を喰《く》っつけたがる。もともと、お前さんが狙われ、水流《つる》さんにまで鉾先《ほこさき》が向いて来たというのは、お前さんのその短気な大風《おおふう》が祟《たた》ったということを考えてもらわなければならんのだが、今が今どう性根を入れ換えてくれという話じゃない。人のいうことを好く聞いてもらいたいというものだ――俺たちは今、村の者でもないお前さんたちが担がれては気の毒だと思って、対策を講じているところなんじゃないか。」
 杉十郎がこんこんと諭《さと》しはじめるので私たちも腰を据えたが、彼らのいうことはどうもうかうかとは信ぜられぬのであった。その話を聴くと、私たちばかりが、矢面《やおもて》の犠牲者と見えたが、柳下父子を初めとして、法螺忠や金蔵の悪評は、桜の時分に此処《ここ》に私たちが現われると直ぐにも聞いたはなしで、彼らが夜歩きや踊り見物に現われ
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