るやいなや狐のように前へのめると、やにわに径《みち》も選ばず一直線に畑を突き抜いて、彼らの行手を目指した。街道は白く弓なりに迂廻《うかい》しているので忽《たちま》ち私は彼らの遥《はる》か行手の馬頭観音の祠《ほこら》の傍らに達し、じっと息を殺して蹲《うずくま》ったまま物音の近づくのを待伏せした。突撃の軍馬が押寄せるかのような地響をたてて、間もなく秘密結社の一団は、砂を巻いて私の眼界に大写しとなった。非常な速さで、誰も掛声ひとつ発するものとてもなく、唯不気味な息づかいの荒々しさが一塊《ひとかたまり》となって、丁度機関車の煙突の音と間違うばかりの壮烈なる促音調を響かせながら、一陣の突風と共に私の眼の先をかすめた。見ると連中は挙《こぞ》って鬼や天狗、武者、狐、しおふき等の御面をかむって全くどこの誰とも見境いもつかぬ巧妙無造作な変装ぶりだった。ただひとり彼らの頭上にささげ上げられて鯉のように横たわったまま、悲嘆の苦しみに※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]《もが》き返り、滅茶苦茶に虚空を掴《つか》んでいる人物だけが素面で、確《しか》とは見定めもつかなかったが、やはり正銘な万豊の面影だっ
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