書の中の分類表から律して見ると、怪物と闘ふ強者の勇敢さに単なる読者として手に汗を握るばかりでない――別様の興味を誘はれるのであつた。
 例へば、セント・ジヨージが誘惑の森で、青舌の Witch の甘言に陥る場面などでも、エルムといふこの Witch の名前を「デビルズ・デイクシヨナリイ」のEの項で探して見ると、(大意を和訳して述べるが)エルムは Whitch と Wizard の不義の子にして、生れながらに呪はれたる自らの命を自ら深く呪ひつゝ、善良なる旅人を己れが永遠の呪ひの犠牲《いけにへ》にして底無しの淵に誘ひ込むことをもつて本性となす者なれど、その名称の依つて来るところは、エルムが旅人をさし招く態は、恰も witch−elm−tree の条々たる垂れ枝が微風に吹かれて打ちなびく姿から聯想されて、海賊期のアングル族に擬人化されたるものなり。またフアウスタス博士の独言、
「自然の秘密を探究せんが為には、地獄を訪れなければならない。地獄を訪れんが為には悪魔を俟たねばならぬ。悪魔を俟たんが為には魔術の力に依らねばならぬ。」
 この有名句を「マヂシアンズ・ボキアブラリイ」で探して見ると、一五
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