さう云つてくれ。利息ぐらひ何でえ!」と、彼は云つた。語尾が「でえ」といふやうになると彼は、もう駄目だつた。誇大妄想に等しい酔漢に変つてゐるのである。――此奴、社会主義の仲間にでもなつたのかしら、いつの間にか! あれの下ツ端は、皆な気の小さい貧乏人ばかりださうだが――ふと藤井は、そんな気がした。
「幾らだア! 幾らだア!」
「……おい、止せよ、外を通る人が変な顔をしてゐるぜ。」
「俺ア、泥棒だアぞう!」
さつき彼は、変に心細い気持に陥つて、如何に自分が情けない存在であるかといふことを知らせる為に、鏡の比喩などを、当つぽうに用ひたのであるが、折角の言葉に藤井がさつぱり耳を傾けなかつたのが気に入らなかつた。彼は、そんな原始的な比喩に得意を感じたのである。……「何だつて、はじめての苦労だらう、だつて! ヘツ、止して貰ひたいね。苦労たア、どんな塊りだア! いくつでも持つて来やアがれ、皆な喰つてしまふぞう……親爺が死んで、長男即ち吾輩が、だね、あまり無能だからか、そりや無能は困るだらう、困るには困るが、無能だつて余外なお世話だ、今更無能を悟つて、誰が驚く! 苦労たア、何だ!」
彼は、そんな似而
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