になつて到底斯んな種類の仕事に耽つてゐる余猶はなくなるに違ひない――彼は、珍らしくそんな要心深い考へを起したりして、努めて心を明るくさせた。――(今夜から、早速取り掛らう、まさか字引の引き方を忘れてもゐないだらうからな。)
彼は、なみなみと注いだウヰスキイのカツプを一息に飲み干した。――そして、またトランクの中から、ボロ/\になつてゐる英詩集を取り出して、断れ/\に歌つた。
「She was a Phantom of delight
When first she gleam'd upon my sight;
A lovely apparition, sent
To be a moment's ornament;
Her eyes as stars of twilight fair;
Like Twilight's, too, her dusky hair;
But all things else......」とか、「何だか、はつきり解らないぞ、この、おるずおるすは!」と、云つて、また、別の処を開いて――「Who is the happy warrior? Who is he―Whom every man in arms should wish to be?」などゝ叫んで「こいつも、解らねえ、チヨツ!」と舌を打つたり「ぢや、こんどはテニソンだ。」と云つて、ひよろ/\と立ちあがつて、
「Ring out, wild bells, to the wild sky,
The flying cloud, the frosty light:
The year is dying in the night;
Ring out, Wild bells, and let him die.」
――「これやア、好いなア!」と、感嘆して「Wild《ワイルド》 bell《ベル》 は、好いなア!」などと悦びの眼を輝やかせた。この英文学士は、かの有名な、[#横組み]“In Memorium”[#横組み終わり]をこの時初めて眼にしたのである。そして彼は、更に声を大にして、
Ring《リング》 out《アウト》 the《ゼー》 old《オールド》, ring《リング》 in《イン》 the《ゼー》 new《ニユー》,
Ring《リング》 happy《ハ
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