た。
「乱暴をするな。」と私はいつた。
「何だ手前は――何処から来た案山子野郎だい、蓑なんぞ着やがつて――擲りつけられぬうちに妙公を伴れて来い。」
「擲りたければ擲つて見ろ、大馬鹿野郎奴」と私も怒鳴り返した。
「ようし!」
九郎は双肌《もろはだ》を脱いで立ちあがり、ペツと頑固な拳骨に息を吐きかけたかと思ふと、バツトを振るやうな身構へで、いきなりグワンと私の脳天に物凄い横擲りを喰はせた。それと同時に、
「キヤツ!」と叫んだのは九郎であつた。私は五六歩ヒヨロ/\とよろめいたが、たゞ風に吹かれた通りであつた。
「こいつ石頭だな。ようし、そんなら、これだ……」
九郎はまだ私の装束に気づかず、傍《かたはら》の酒徳利をつかむと同時に、いきなり私の頭をポカリと叩いた。――音だけは聞えたが、私は徳利が頭に触れたのも感じなかつた。――それよりも私は、田甫をよ切つて相当の道程を駆けつけて来た後の甲冑の重味が身に応へてフラ/\として来たところで、また九郎が別の徳利を振り揚げたから少しでも居酒屋の被害を軽くしてやらうといふほどの心遣ひで彼の腕をおさへようとすると、手もとが狂つて鉄の手甲をつけた私の拳が厭つ
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