街上スケツチ
牧野信一

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)浮々《うか/\》

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)うか/\
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 明るいうちは風があつたが、陽が落ちると一処に綺麗に凪いで、街は夢のやうにうつとりとした。――円タクの運転手が、今年の冬は実に長かつた! と力を込めて話しかけた後に、然しまた、これからは事故が多くなるので、浮々《うか/\》しては居られない、事故では自転車が一番多い、居眠りをしながら走つてゐるのがあるのだから……。
「だが、今夜のやうな陽気だと、吾々もつい眠くなりさうだ。気をつけなければならない――」
 などゝ呟いでゐた。
「未だ歩いてゐたのか?」
「ひとりか?」
「さつきは、酷く忙しがつてゐたぢやないか、未だ帰らなかつたのか?」
 銀座に出て、独りで歩いてゐると、次々に出遇つて、三人が、五人となつた。三人は、風のある明るいうちに、同じ街角で出遇ひ、忙しさうにして別れたのであつたが――みんな独りで歩いてゐた男達であつた、そして、飲み友達であつたのだ。五人とも、酒を飲まぬ限りは、何となく瞑想家沁
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