みた気の毒な人達だ。いつまで顔を見合せてゐても、微笑一つ浮べぬといふ風だ。
「未だ時間が早過ぎるな。」
Dが、さう云つたのは酒場の事である。
「おい、D――」
とBが、手持無沙汰からDの肩をつかんで睨めた。「俺は眠いよ。だから今夜はお前がEともみ合ひを始めても、俺は、うつとりと聞いてゐるからね。眠気醒しだ。」
「今日俺は、エレベーターの中で居眠りをしてゐる人を見たよ。七階まで三度往復してゐたが……気がついて見ると、俺も、ぼんやり三度往復してゐた。好いあんばいに運転手も気がつかなかつたが。」
「リフトの運転手が、眠気に襲はれたら辛いだらうな、これからは。」
春と眠気に就いて、自動車から船へ移り、飛行機の挿話に移つてゐた時、突然群集が異様などよめきを挙げた。開き直つて見ると、どよめきは、罵しりと笑ひの交錯である。
「何うしたんだい、夜が明けるぞ。」
車の窓からそんな声がした。往来が、一杯行き詰つてゐる。
罵りと笑ひの声は、八方から交叉点を目がけて飛び散つてゐた。何方側の車も行き止つてゐる。電車も十文字に停り続けて、先の車の窓々からは重り合つた乗客の顔がのぞき出てゐる。だが、それら
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