。」
私は、自分が意気地なしにされた不満を覚えたが病気と聞いたので堪《こら》へたやうにうなづいたが、内心私は、とてもかなはないやうな気がしてゐた。
娘は、まだ土蔵から出て来ない――何かいふなら今のうちだと私は思つた。
「父親がないと思ふと可哀想で――」と娘の祖父はいつた。
*
私たちは、ブランコに乗つた。私は、この遊び道具を好まなかつた。ひとりで、あまり大振りをせずに乗つてゐる位なら辞退するほどではなかつたが、大振りは肉体的にかなはなかつた。機械体操なら多少の離れ業が出来るにもかゝはらず、特にこの遊び道具が私には適してゐなかつた。少し大振りを試みると私は五体が硝子の壜に化したやうな寒さに戦くのであつた。そして、眼がまはつてしまふのであつた。
だから私は見物をしてゐた。
娘は、これが非常に好きだ――といつた。朝晩これに乗つて一回づゝおそろしい運動をしないと、
「気色が悪くつて――」
いちにち中わけもなく焦れつたくてならない、何んでもないことに堪らない癇癪が起こつて、どうかすると飛んでもない乱暴を働いてしまふやうなこともある――といつた。
はじめ彼女は
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