ないので稀に子供伴れのお客があるとあれ[#「あれ」に傍点]は夢中になつてしまふのである、どういふわけかあの子は乱暴でいけない、馬鹿な癇癪持ちでうつかり逆らふと相手の見境もなくどんなことをするかも解らない、だから決してよその子とは遊ばせないやうにしてゐる、この間などは夜中に夢中で飛び起きてはだし[#「はだし」に傍点]で、あの街道をまつしぐらに駈け出す騒ぎ――。
「その速いの速くないの!」と娘の祖父は、さういつて息をのんだ。――「あゝいふ子はうつかり叱ることも出来ないんです……そんなひどい怯え方をするんですからな――こつちがもうこはくてこはくて!」
幸ひその夜は月夜だつたからよかつたものゝ、それでも村中の騒ぎだつた、翌朝たづねて見ると何も知らないといつてゐる……。
「よく子供にはある病気なんだが、あれのは大分ひどすぎる!」
「そして――」と娘の母が続けた。「悪いことにはあれ[#「あれ」に傍点]は意地悪なんです、男のやうに乱暴な――玩具だつて満足には一ト月と保つものはありません。」
――「何かまた、意地悪をしたんでせう? 仕様がない、かんにんしてやつて頂戴ね、あれは少し病気なんですからね
前へ
次へ
全15ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング