、私の弁解を素直にきいて、では少しの間待つてゐておくれ、一汗絞つて清々《せい/\》としてから今度こそは面白く相手になつて遊ぶからといふ約束だつた。そして彼女はシヤツ一枚になつて裏庭に出かけたのであつた。私の眼にさへ、もうおかつぱでは可笑しく映つたほどの年頃に見えてゐたが、彼女の髪は、短いおかつぱだつた。毎朝髪の毛を洗はずには居られない性分で、と彼女の母がいつてゐたことがある。――長い袖の着物を脱いで土に汚れたシヤツ一つになつた娘の容子は、私には思ひも寄らぬ姿だつた。
これは学校のブランコのやうに巌丈で、おそらく三間にも達するであらうほどな湿りを含んだ綱が、静かに垂れてゐた。これは大事にしてゐて、運動が済むと、先にカギのついた長竿でいちいち取りはづして自分で物置きにしまふのだ――といつてゐた。まはりには、土を掘りのけて深々と砂が盛られてゐた。
私は、そこにもある海棠の古木によりかゝつて彼女ひとりの遊びを待つことにした。その花の頃に、花見に訪れるのが例だつたのでそんな気がしたのかも知れないが、彼女の家には海棠の樹ばかりが多かつた。
彼女は、決して私などを眼中に置くことなしに熱心な運動
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