。
外では、風にこはされて面白くない、風がなくてもにげてしまふからあつけ[#「あつけ」に傍点]ない――「お蔵の中だと面白いよ。まつすぐにシヤボン玉があがつて行つて、天井は暗いからいつ玉が消えるのだかわからない。折角、キレイな玉をつくつても直ぐに眼の前でこはれてしまつては、がつかりぢやないの! だからあたしはシヤボン玉を吹く時はいつでもお蔵の中でするのよ。こはれないよ。しまつておけるわ。――どこかしらにかくれてゐる。それを探しツこをしない! 鬼ごつこ見たいに。」
彼女は、そんな意味のことを、私の記憶ではもつと/\芝居じみた言葉で熱心にいつたことを私は覚えてゐる。
――「あたしは、ひとりでもいつもそんな遊びをしてゐる。」
「厭だ。」と私はいつた。
「厭だつて! その遊びをしないとひどい目に合はすぞ!」
鋭く男のやうな言葉で突然彼女は打つやうに叫んだので、私はゾーツとして否応なく承諾したことを覚えてゐる。
隅の方に妙なかたちの朱塗の椅子があつた。娘は、それに腰をおろして、魂をこめてシヤボン玉を吹いた。
「どんなに騒いだつてかまやしないわよ、聞えやしないから――早く/\、早く梯子段を
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