海棠の家
牧野信一
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)脊《せい》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)あつけ[#「あつけ」に傍点]ない
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ところ/″\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−
おそらくあの娘は、私より二つか三つぐらゐの年上だつたに違ひないのだが私には相当のおとなに見えた。兄弟はないらしかつた。
私の家にも稀には母親に伴れられて遊びに来たのであるが、よそに来ると私とさへ碌々口もきかずに母親の蔭で愚図ばかり鳴らしてゐたので、そこでの記憶は何も残つてゐない。あの家でのあの娘の記憶はところ/″\ばかにはつきり残つてゐるにもかゝはらず――。
はつきりとしてゐる気がしても、とりあげて見ると、泡のやうに忽ち消えて、何のとらへどころもない、シヤボン玉をつかむやうな記憶である――ほんとうにシヤボン玉の記憶が先に浮かぶのである――。
土蔵があつた。土蔵の壁は白かつたが、らく書きが一つもしてなかつた。私は、塀や壁に接するとらく書きに注意するのが癖だつた
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