寄生木と縄梯子
牧野信一
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)山頭《やまがしら》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)それ[#「それ」に傍点]は歌はう。
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)早くお出で/\!
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「ヤドリ木――知つてゐますか?」
「……知らんのう、実物を見たら、あゝ、これか――と思ふかも知んないが……ヤドリ木? 聞いたこともない。」
誰に訊ねても同じ返答ばかりであつた。私は、小屋を出てから同じ質問を若い木挽にも訊いた。山頭《やまがしら》の炭焼の老人にも訊いた。鈴を鳴して橇道を滑走して来る橇の一隊をさへぎつて、皆なに訊いたが、一様に首をかしげて顔を見合せてゐるだけだつた。
「有りがたう――兎も角僕はそれを是非とも探して来なければならないので、暫くの間休ませて貰ひますよ。タイピストと二人――」
「現場のあたりへ行つて見なされよ。」
行列は気の毒さうに斯う云つて、鈴を鳴して降つて行つた。
「屹度見つけるであらう、僕は――」
私は、アメリカ語で、フロラを顧みて橇道から森の中へ入つて行つた。
麓の村から三哩、馬の背で踏み入る山奥の材木工場で、フロラと私はその年のクリスマスを迎へようとしてゐた。山に働く他の凡ての人々は、この宗教に全く関心を持たぬ村人達であつたから、フロラと私がたつた二人で、事務所である丸木小屋で花やかな祭りを催すことにした。二人の者は、凡ゆる力を惜まずに此工場で働くことに依つて、希望に充ちた新生活を展く決心だつたから、この時も町へ帰らうともせず、寧ろ此上もない祝福を抱いて、たくましい原始生活と闘ふてゐた時のことである。
仕事の合間を見て部屋の飾りつけを施すのであつたから、三日前から支度をして、この日の午前《ひるまへ》には凡て整頓されてゐた。関心は持たなくても祭りの悦びだけは迷惑にならぬであらう、楽しい夕べが訪れたならば、サンタクロースには山頭の老人を頼まう、子供達や若者を集めてテープを投げ合はう、村祭りの踊りを所望しよう、此方は私が手風琴を弾くから、フロラは一つお得意のロココ風の踊りを批露すべしだ――プログラムまでがきまつてゐた。
飾りつけが出来た時に不図フロラが、
「ミスルトウは?」
と気附いた。
「何処にでもあるに違ひない、こんな森
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