こもつた長い説明に出遇つて辟易したりした。
 未だ、五年かゝるか、十年かゝるか先きの見込みはつかない、今では、山と人間の意地との戦ひになつてゐる。山にしたつて、ドテツ腹に風穴をあけられやうとするんだから、黙つてもゐられまい、水を吐いて防ぎもしよう、火も吐くであらう――そんな意味のことを議員は述べたりした。
 小雨に煙つてゐる山からは、一日に三つ位大きな音響が響き、その間にもいくつかの爆音が続いてゐた。
「だが、一朝事成れば、トンネルと共に吾が町も、一躍世界的の名所になる。」と、議員は云つた。彼が立ち去つた時藤村は、
「あの人は、今夜の演説の練習をして行つたに違ひないよ――屹度、あれと同じ調子でやるぜ。行つて見ようか?」と云つた。
「悪いから止さう。」
「君は、変だ。僕は、何もあの人を軽蔑して云つたのぢやないぜ。」
「そりや、僕だつて……」と私は、慌てゝ付け加へた。おそらく神経衰弱にでもなりかゝつてゐたのだらう、自分の存在は何処に置かれても邪魔なものなのだ――そんな途方もない消極的な妄想に駆られてゐたのだ。
「悪いからだつて……気障だなア。が、まア止さうよ、僕だつて――」
「…………」

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