構へて見るんだ、と、ぴつたりとその予期にあたつてさ、あいつが此方の呼吸と一処にだね、ドカン! と鳴るんだね、でも駄目だね、うつかりしてゐる時に打たれるのと、まつたく同じやうに驚かされてしまふんだ――尤も、この頃の僕の心は、余ツ程……」
 たつた今、藤村《ふぢむら》は、山のいつもの音響に出遇つて、思はず、
「アツ!」と、(私も同じく――)驚きの声を挙げてしまひ、そして二人は思はず顔を見合せて間の抜けた微笑を浮べた時、そんなに拙い調子でクドクドと変な説明をした。
「それにしても、今のはまたバカに大きかつたね。」
 私も仰山な驚き方をしてしまつたのが、気恥しかつたので、さう云つた。
 山の音響といふのは、鉄道のトンネル工事が初まつてゐるこの町の西側を取り囲んだ大きな山から響く爆破の音なのである。――山の両裾が翼になつて、湾を抱いてゐる。小さな町は、そのふところで温泉の煙りに蒸されてゐる。朝から夕方まで、何回となく大小の爆音が、もうすつかり慣れて平然と静寂を保つてゐる街の頭上をかすめ、或ひはふところの街に、物思ひに沈んだ酔漢が自分の胸に吐息を吐きかけるやうに、轟々と渦巻き、ゆつたりとした足どり
前へ 次へ
全34ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング