ダスの楯に注げ! Rの剣が折れるか、Hの KOMAZEIN が俺の剣に巻き落しを喰らはせて空中高くはね飛せるものか――。
「さあ来い/\、二人の気の毒な闘剣者《グラジエーター》よ、相手は此方だ。俺のコモイダスの剣の先が、何とまあヒラ/\と、月の光りを飛び散らして、河面《かはせ》に踊る初夏の鮎のやうに、または森蔭に飛び交ふ狐火のやうに、間抜けな/\、お前達をモツケ(闘剣術に使はるゝ、「嘲り」の型也)してゐるのが解らないか。」
と、私は、決闘場に馬車が到着するやいなや、二人の闘剣者を左右に割つて、大声を挙げて叱咤した。
すると私は、四囲の参観者が急にゲラゲラと腹を抱へて笑ひ出したのに気附いた。(これは後になつて説明されて解つたのであるが、私はそれだけの文句を口走るのに、恰も物覚えの悪い役者が、夢中になつて己れの科白を思ひ出さうと努めながら、うろたへてゞもゐるかのやうに、口ごもり/\、眼ばかり白黒させてゐる姿が、まことに悲惨であり、また漸く口にのぼせた文句だけはあのやうに一《い》つ端《ぱし》偉さうな美辞麗句に富んでゐる見たいであるが、それを吐き出す様子の切な気に見ゆると云つたらない! 躓
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