いてゐるのを彼等は、態ア見ろと云はんばかりに冷たく見返りました。――、合戦は次第に激しくなり、彼はわざと春ちやんの目の前で花々しく大太刀を振ひました。見物は胆を寒くしながらも、勇敢な役者達に拍手を惜みません。
「この時突然、見物席に割れるやうな笑声が起つた。
「アラ、面白いわ/\」と云つて春ちやんも夢中で立ちあがつた。自分もそつとスサノヲの尊の面の下でそつと其方に横目を放つて見ると、素晴しい合戦の間を誰もが厭がつて手にしなかつたひよつとこ面をかむつた小坊主が、ふらふらと迷ひ込んで来るのであつた。玄吉である。役者達は内心驚いたが、眼もくれぬ態で益々激しく戦ひを続けた。自分は、ヤア/\とあらん限りの掛声を放つて、大槍を打ちふるつた。切つて切つて切りまくつた。ところが小坊主ばかりが見物の視線の的になつてゐるので、武士の面々は余程テレてしまつた。
「大将のお面でなければ厭だと云つて承知しなかつたのですが合憎あれが一つしか残つてゐませんで、やつと騙したんです。」
「まアまア、でもまア何てまア玄坊は剽軽な子でせう、それに巧いこと!」
 母達も出て来て切りに玄吉を賞讚した。自分達はムツとしたが、止め
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