小説を私に贈つたのです。第一頁に麗々と「余の第一作を幼児よりの友B兄へ捧ぐ。」と書いてゐるのを私が見た時、何だかかーツとして顔のあかくなる思ひに打たれたのです。「仮面の下で泣いた子」といふ題でした。
 子供である「自分」が毎日のやうに友達を集めて芝居ごつこをやります。女の子の見物を主にして集めます。彼の家庭の雰囲気についても種々書いてありましたが、こんな部分が主でした。彼は、春ちやんといふ女の子に秘かに心を惑かれてゐるらしく、その子の注目を惹くためにあらゆる努力をします。「役者は一様に強い大将ばかりだつたから芝居は関ヶ原の合戦ばかりが二慕も三幕も続いたが戦死する者などは決してなかつた。私は、なるべく乱暴な立廻りをして春ちやんをハラ/\させてやり度く、楽屋で秘かに三平をつかまへて「僕に殺される役目を引きうけて呉れないか」と頼んだ。――」
 常々から彼は、隣家の一人息子の玄吉を好かないで仲間に入れません。玄吉は泣き喚きながら母親を引つ張つて、母親の口から仲間入りを頼みます。誰も相手にしません。自分達より幼い癖に仲間入りをしたがるなんて生意気だと思ひます。玄吉が母親の髪の毛に武者振りついて喚
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