とりと調子を合せて、その儘彼女の言葉をいくらか煽動気味に運ばせて行くと屹度終には彼女は、以下の言葉のうちの何れか一つを毒々しく嘲笑的に口走るのであつた。
「阿父さんは、あんたの阿母さんをそんなに好いてはゐなかつたのね。」
「何時か酔つてゐる時にあたしに云つたわよ――厭だから行つてしまつたんだつて!」
「あんたが生れた時、阿父さんは内心ガツカリしたかも知れないわね、ホヽヽヽヽ。阿父さんは二十二三だつたのよ。」
「余ツ程でなければ、生れたばかしの子供を残して出られないわ!」
私には、そんなに雑駁な眼で一人好がりに父の立場を認められなかつた。私は、寧ろ雑駁に反対のことを思へば思ふのであつた。――だが、どちらにしても、そんなことを云はせてしまつてから私は、急に冷かさを失つて暗鬱な気に打たれるのであつた。……(自分は不自然な愛の間から生れた子に違ひない、???? それで俺は斯んなに馬鹿なのかしら! それで俺は、性質が妙に弱いやうな、狡いやうな、そして男らしい一本気に欠けてゐる、辛棒性がない、そのくせ悪く小細工をするやうな根性をもつてゐる。且つ何事にも飽ツぽい!)
その上自分は、もつと自分は厭
前へ
次へ
全34ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング