ふのでその計画を子供らしく悦んでゐる妻と私は、平気で露はに話し合つてゐるのであるが――「あたしよりも齢《とし》は上なのね、一つ? 二つ?」
「西洋風に数へると、何うなるかな?」
「同じぢやないのよ、馬鹿ね。」
「あゝ、さうか……?」
まつたく自分は、夢見心地だつた。母を別々にする見たことのない妹に会ひに行くといふはつきりした一つの的もあるのだが、あまり物事を切実に考へる性質でない自分には、日頃の煙り深い頭がいくらか限られた範囲の夢の中でうつらうつらしてゐるばかりであつた。そんな的がある位なら返つて窮屈な気をして、折角その為に計画した渡航もだん/\厭になる気もした。――写真の印象だけでまさか見間違えることもなからうが、若しもあの眼の球が青かつたらどんなに薄気味悪いことだらう! そんなことを思ふ位なものだつた。
「さうすると、阿父さんが何歳《いくつ》の時なんでせうね。」と妻は、甘い意地悪るな享楽に耽つてゐるらしい嗤ひを浮べて、わざと自分の返答を待つたりした。さういふ時の妻は、たしかに私の母に対して快哉的気分を何か感じるらしかつた。私は、屡々女の斯様に卑俗な感情を研究するために、故意におつ
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