、
「私は、そんな性質は知らない。」と、冷たく云つた。
「F!」と、尚も私の父は厭味な微笑を漂はせながら云つた。「彼に作法を教へてやつて呉れないか? だんだんに――」
チェッ! ――と私は、ふてくさつた舌打ちを、胸の中に感じた。
「おお、さう。」と、Fは無頓著に点頭いて、そして直ぐに私の方を向いて、
「……You……dear……お前の町の美しい海岸を案内して呉れないか……私は日本語を研究してゐる……見物に興味を持つてゐる……青年と交際して……この街に著いた最初の印象は……」
……は、私に聞き取れなかつた部分である。私が、黙つてゐるのでFは父の方を振り向いて、
「彼は、英語は話せないのか。」と訊ねた。
「Practical は不得意らしい。」と父は答へた。弁護したんだな、Practical も Academical も不得意なんだぜ――と私はそつと呟いて、気おくれを感じた。
「おお、さう。この先私と交際して行つたら、彼の勉強にもなるだらう。」
「非常に、非常に――彼は、学校を卒業したらお前の国を訪問したい希望を持つてゐるさうだ。」
私は、一層迷惑を感じて、更に苦い顔をした。父は、一
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