なるのであつた。私は彼等の物慾を卑しむわけではなかつたが、その一味に肉親の者が加はつてゐるのを知つてしまつた事に鬱陶しさを覚ゆるのであつた。――ところで、このガラドウは、そんな類ひの所業が寧ろ仕事であつて、今では、山を越えた隣り町に住む私の叔父の屋敷つゞきの桃林の中にバンガロウ式の館を建てゝ、美しい妾を囲つてゐる。それは余談であるから説明を元に返すが、ガラドウといふのは私が与へた仇名であつて、つまり狐頭の化物の意味である。本来の和名は――此処に述べる要もないが桐渡鐐之助を、自ら最近、鐐通と改めてゐる。理由は解らぬのだが、私も考へたこともないが、姓名判断に従つた由である。それと同じく、地主のアービスは牛頭、従者のアヌビスは犬頭――共に私の命じた名前である。
「ねえ、先生。」
 桐渡ガラドウは、さう繰り返しながら、自分の眼の方が米俵に腰掛けてゐるのだから、雪五郎の隣りに坐つてゐる私のよりは、はつきりと上段に据つてゐるのに、その視線をぐねりと波型にしやくりあげて、逆に、下から上へ私の頤をおしあげるやうに見あげるのであつた。私が彼に、鼻曲りといふ形容詞を冠したのは、彼の野蛮な皮肉味を抽象的に指
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