雪五郎がそう云つて悦びの胸を張り出さうとすると私が危く膝からこぼれ落ちかゝつたのを、雪太郎が置物でも持ちあげるように軽く自分の膝に享けとつて、
「その天秤の後ろを担ぐ私も――」
と続けて雪二郎が更に私を膝の上に享け渡されて、
「一家そろつて斯んな目出度いことがありませうか。」
と、決して下には置かぬ歓待であつた。
「おゝ、先生、あたしにはもうはつきりと太鼓の音が聞えますわ……」
メイ子は身を震はせて私にとり縋ると、さめざめと嬉し涙を流した。
お天気続きを悦んで水車をも休め、豊年祭りが近づいた、やがてのことには雨も降るだらう、そしたら回つて/\黄金の餠を搗いてお呉れ――雪五郎達は、そんなやうな意味の「水車小屋の唄」を歌ひはぢめた。ガラドウ達の襲来などは全く意にも介してゐない素振りであつた。そして一同は傍らに積んである赤松の薪をとつて炉端を叩きながら歌の調子をとり、私も釣られてタクトを振らうとしたが、決して片手では持ちあがらなかつた。
それにしても水門の水勢がもう弱る頃ほひだから、扉を閉しに行かなければならぬ、だが、大変車が目醒しく廻りつゞけてゐるではないか――と云つて兄弟が
前へ
次へ
全43ページ中41ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング