の先へ立つと云へば……鳧のつくことだ……」
 小屋の胴震ひの音にさまたげられて止絶れ/\にしかうけとれなかつたが、いつの間にか迎へに走つたと見へる雪二郎を先きにして、雪五郎と雪太郎が口々に亢奮の言を叫びながら嵐となつて飛び込んで来た。それと一処にメイも何か叫んで私の胸に飛びつき二つの拳骨で、私の胸板を太鼓と鳴らした。たしかその時雪五郎がすいと腕を伸したかと思ふと私の五体は鞠になつて真黒に煤けた屋根裏へ飛びあがり、ふわり/\と感じたかと思ふと、決して訳の解らぬわあ/\といふ人の車の歓声に吹き飛ばされて、繰り返し/\宙にもんどりを打つてゐるのである。私は、目も見えなかつた。昏倒しさうであつた。ガラドウの同勢が圧し寄せて、合戦がはぢまつたのかしらと思はれた。……で、不図、落ついたので、それにしても酷く坐り具合の好いソフアに居るが、いつの間にか敵軍を追ひ払つて、大将の席についたのかな? そんな心地がして、静かに眼を開いて見ると私は、雪五郎の膝を椅子にしてゐた。――合戦かと早合点した今の騒ぎは、雪五郎達が歓喜のあまり私を胴上げの手玉にとつたのであつた。
 水車の響きに逆つて、大声の会話を取り換す
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