彦の精《エコウ》が、馬が、河童《ニツケルマン》が、|風の神《ゼフアラス》が、|人形使ひ《ピグメーリアン》が、|蝶々の精《サイキ》が、ダイアナがおかめと手を携へて往き、閑古鳥をさゝげた|白鳥の精《レーダ》が笛を鳴らし、榊やオリーブの枝をさんさんと打ち振りながら続いて続いて止め度がない……。轣轆たるバラルダの廻転と、荒武者が此処を先途と打ち鳴らす竜巻村の大太鼓の音が人波を分けて、行列を導いて行く。
 私は、声を張り挙げて歌ひつゞける……、
「鏘々として鳴つて玲瓏たり……」
 ――「おゝ、もうお目醒めになりましたか。雪二郎が朝餉の仕度をして居りますから、どうぞ囲炉裡にお降り下さい。」
 窓下からの声で私は、夢から醒めると、朝餉の前の一働きに水門開きに出かける雪五郎と雪太郎であつた。
 いつか、もう夜は、ほのぼのと明けて、山は藍色に、野は広袤として薄霧の中に稲むらの姿を点々と浮べてゐるのみであつた。行列は、もうあとかたもなく山上の森に吸ひ込まれて、車の軋りの音も消えてゐる。
「今朝方は、また二寸からの減水で、いよいよ車は水が呑めなくなりましたが、お心はたしかであつて下さいよ。」
 と雪太郎が呼
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