死んでも関はない。アクテオンのやうに――」
と覚悟した。
「君は、そのまゝ逆ふことなしに乗つてさへゐればドリアンは、自分から進んで女主人の後を追うて行くに違ひないから、君はたゞ落ちないことだけに注意してゐれば好いだらうさ。」
青木は、そんな注意も与へた。
「いや、ドリアンなら自信があるよ。平気だ。この分では、全速力を出しても俺は立派な騎手がつとまりさうだよ。」
三木は、観念した後に、そんな自慢をいつて、即座に出発しようと手綱を振つたが、ドリアンは一向歩き出しもしないのであつた。木馬のやうに行手を眺めたまゝ、凝ツと立ちどまつてゐるだけだつた。
「ドウ、ドウ!」
三木は、威厳を含めた太い声で唸つたが更に利目はなかつた――三木は、焦れて、馬の腹を蹴つた。が、ドリアンは鈍い眼ばたきをしたゞけでなほも動かなかつた。
「まるで銅像のやうだ。君の顔も、そんな風に武張つたところは、仲々強さうに見えるな、たしかに軍人だぞ。」
青木が笑つたが、三木は聞えぬ風をして切《しき》りにスタートをあせつてゐるのであつたが、まるでドリアンは真の銅像に化したかのやうに動かなかつた。
「何うしたんだらう。ドリア
前へ
次へ
全31ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング