そして短い乱脈な髪の毛が陽に映えてゐる様子の雪子の姿は、そのまゝ神話のヒロインでゝもあるかのやうに――空想家の三木の眼にうつつた。
「そいつは面白い。三木がドリアンに乗るのは愉快だ。おれが審判官にならう。」
と青木も賛成した。
三木は、両脚がかすかにふるへてゐるのに気づいた。彼は、常々どんな馬にも近寄れぬ質であつた。そのギヨロリとした大きな眼玉やたくましい鼻腔のフイゴのやうな息づかひ――などにたま/\接近して見ると、化物でも見たかのやうな無性なをのゝきに襲はれるのが常だつた。
そんな恐れと、娘のふくよかな頬の魅力と、そして薄ら甘いメルヘン気分の陶酔とが、しばらくの間眼の先で火花を散らしてゐたが、
「ぢや、ドリアンはこゝにおき放しにして行くわよ。こちらは自分の脚で逃げるんだから、余程先にスタートさせてもらはなければかなはないわ。」
雪子の声で、三木は改めて丘の上を振り仰ぐと、もうジヤムパアを脱ぎ捨てゝゐる娘の露はな腕と健やかな脚が、まぶしく映つた。――三木には、娘の姿が、侍女に上着や靴や弓矢をあづけて水浴のために谷間に降りて行く森の女神ダイアナの姿に映つた。ダイアナは、若者アクテ
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