位なんだから……」
 青木と三木は、主に雪子とドリアンを話題にしながら丘を越えて行つた。――後から青木の名を呼ぶ者があつたので、見ると、馬を伴れた村長の息子だつた。
「ドリアンの代りに、今度これを買つたんだよ。毎日馬場に練習に来てゐるんだが、ドリアンなんて敵ぢやないぜ。雪さんなんてとても羨ましがつてゐるよ。第一馬車を引かす馬とは比べものにならぬよ。」
 ガウンで覆はれてゐたから毛並は解らなかつたが、息子は得意気にそんなことをいひながら手綱を引いて行き過ぎて行つた。
 擂鉢型の盆地で、丘の上から見降す具合の馬場であつた。十頭ばかりの馬が馬場に出て切《しき》りに競争の練習中だつた。
「雪さんは居ないやうだね?」
 三木は双眼鏡を借りて見降してゐた。騎手も馬も丘から見ると玩具の大きさだつた。
「居ないのかしら?」
 青木も切りに探し索めた。やがて、
「あ、居る/\。村長の息子が、傍へ行つて何か話しかけてゐる、今の自慢の馬を示しながら――。彼は、自分の馬に雪子を乗せようとしてゐるぜ。」
「解らない、もう少し下へ降りて見よう。」
「海老茶のシヤツを着てゐるのが、雪子だよ。」
「鳥打帽子をかむつて
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