、寂しさうな声で呟いた。
「さうよ、ドリアンがゐなければ、あたし明日からでも東京へ行きたいわ。遊びに行っても[#「行っても」はママ]、直ぐに斯うやつて帰つて来るのはドリアンが気になるからなの……」
 三木は、胸のうちで呟いたつもりだつたのが不図口の先に浮んでゐた。
「ダイアナの護衛卒は、ダイアナの永遠の処女性を護るために……」
「え?」
「告げ得られるものなれば他人に告げて見よ、ダイアナの裸身を見たと――そんな言葉を思ひ出したんだけれど。」
「何うしたの、三木さん――。それ、芝居の科白なの?」
「ドリアンがゐる以上は、誰も雪さんを誘惑することは出来ないのか! と思つたら僕は何だか、とても愉快になつたよ、たつた今! 痛快なことぢやないか。」
 三木は、突然そんなことを大きな声でいひ放つと、
「飛ばさう/\!」
 といつて手綱を強く振つた。
「お嫁にゆくんなら厩のあるうちでなければならない。厩のあるのは村長の家より他はない。」
 雪子は、ふざけた歌でも歌ふやうにそんなことをいつた。

     十一

「一体俺は何うしたら好いんだらう。雪子のことを思ふと憂鬱にならずには居られない。」
 村
前へ 次へ
全31ページ中25ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング