馬をつなぐ筈のところの梶棒を持ちあげたぢやないの、ところが、ひとりで、いくら力持ちだつて人間が馬の代りなんて出来はしない! 持ちあがりもしないぢやないの。(そんなら二人がゝりで引いて行かう。)と村長も業腹になつて、息子と片々宛で梶棒を持つて、引き出さうとしたんだけれど、到底駄目さ。――ハツハツハ……皆なで思はず笑ひ出してしまつたわ。するとね、村長父子は自尊心を傷けられたと見えて、真ツ赤になつて(今に見てゐろ、屹度ドリアン諸共取返して見せるから――。)と物凄い捨科白を残して引きあげたのよ。その時、あたしには聞えなかつたけれど(馬車と一緒に雪子も伴れて行くからそのつもりでゐるがいゝ!)なんていつてゐたんですツて……」
 雪子は堪まらなく可笑しさうに思ひ出し笑ひを繰返してゐたが、三木は、凝ツとドリアンの蹄の音に耳を傾けたまゝ、感歎に堪へぬが如き神妙な調子で、
「雪さんとドリアンは恰度ダイアナとその護衛卒のやうなものだ。」と唸つた。
「冗談ぢやない。……だけど、あたしが若し何処かへお嫁に行くとしたら何うしたつてドリアンはお伴になるだらうと思ふと……」
「とても都会生活は出来ないな。」
 三木は
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