に身をかためた上で、鞭の先で長靴をたゝきながら散歩に出かけて見た。雪子はむしろ今度は愉快であつた。
街道に出て不図行手を見ると、村長と息子が馬車に乗つて朝霧を衝いて走つてゐた。後ろ姿であるが雪子には、一ト目でそれがドリアンであることも解つた。雪子は靴音を忍ばせて馬車の後を追つた。
村長と息子は仲睦まじく肩を並べて隣町の方へ赴くらしかつた。
「村長さん、お早う――」
雪子はかう背後から声をかけた。同時に馬車はピタリと止つた。
「雪さん!」
村長と息子は同時に、雪子に同乗をすゝめた。何も彼も知らぬ気な素振りで――。
「あんたに是非買つてあげたいものがあるんだがな、一緒に乗つて町へ行かないかね。」
「お父さんがね、君に指輪と首飾りを買つてやらうといふんだよ。実は、それを買ふために今朝二人で出かけたところなんだよ。恰度好いから一緒に行かう。」
村長と息子はこも/″\甘言を用ひて雪子の同行をすゝめるのであつた。
「この間の晩のダイビングは面白かつた?」
あまり息子の態度が白々しいので雪子は、斯んなことでも訊いてやらうかしら――などゝ思つた。
九
――しかし雪子は、いふ
前へ
次へ
全31ページ中20ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング