までもなく同行を辞退した。
「ちよつとそこまで散歩に出るといつて来たのですから――それに斯んな格好で来ましたのは、川向ひの親類へ行つて馬を借りて来るつもりでしたの、ドリアンなんて、あたしもう飽きてしまつたから、今度は叔父さんのうちの……」
雪子は、皮肉をいつてゐるつもりだつた。そして、出来るだけ恬淡さを装うた明るい微笑で述べてゐたのであるが、
「ドリアンなんて、もう――」などゝいつて見ると、急に堪まらない悲しさが込みあげて来て喉がつまつた。
「さよなら――」とだけいひ棄てると慌てゝ踵を回らして後戻りした。暫くの間、半ば無意識で駆けてゐたが、背後から切りと、
「おーい、雪さん、待つて呉れ。」
「こつちはお前については行かれないんだよ。他に急ぎの用だつてあるんだよ――」
「ドリアンの向きを換へて呉れ! 困るぢやないか、おーい、おーい!」
などゝ叫ぶ声がするので、振り返つて見ると、村長と息子を乗せたまゝドリアンはちやんと馬車の方向をこつちに換へて、雪子が歩めば歩み、駆ければ駆けながら従順について来るのであつた。
雪子は、悲しさと嬉しさに胸が一杯だつた。ドリアンだけならば、ドリアンの顔に
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