タキシーもなくなるので、俺は何時の時でも斯うして妹を迎へに来なければならないんだよ。」
「此処から君の村までの道は、然し、馬車でドライヴするのが最も適当な感じだな、あの景色の中を馬車でのろ/\と往復するのは至極ロマン的で、何時も俺は、それが此処に来ての楽しみの一つだよ。」
「常習者にはさつぱり面白くもないが……」
 青木はいひかけて、
「何だ、厭にのろ/\とやつて来るぢやないか、おい、雪子!」
 と声をかけた。
 すると改札口の四五間先の処で、純白の半オーバを着た、歩き振りの極めてスマートな婦人が、青木の声に応じて腕をあげながら駆けよつて来た。
 三木は、眼近くなつても、それが雪子とは思へぬ程であつた。この洋装の婦人なら、列車を降りて来る時から気づいてゐたが――
「しばらく……」
 雪子は、こゝろもち顔をあからめて三木に挨拶した。
「すつかり見違へてしまつた!」
 三木は、雪子の念入りにブラツシをあてられた睫毛が濡れたやうに沾んでゐるのを見た。西洋風の淡白の化粧が、淡白に見ゆるがために却つて技巧的な念が施されてゐるのを見た。外套の襟から窺はれる露はな胸に、粋な誕生石の胸飾りが見えた。

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