ひかけて何故か青木は、その話頭を転じてしまつた。――。
「俺も近いうちに東京へ移りたいと思つてゐるよ。そして、雪子と二人で小さな家でも借りて学生々活の続き見たいな生活に入らなければ居られなくなるかも知れないのだ。」
「それあ反対だ。」
 と三木は叫んだ。「君の仕事は是非この田舎で相当のところまで完成して欲しいな。」
「さうかね。」
 青木は何時も素直であつた。
「俺は、何処だつて関はないが、雪子が……」
 その時次の汽車が到着したので二人は会話を中断して、外へ出た。――と何時の間にか青木は、思ひの外酔つてゐて、三木の肩に支へられでもしないと脚もとが怪しいほどであつた。三木は感傷的な声を挙げて、
「青木、どうしたんだい。しつかりしろよ!」
 などゝ口走つた。

     六

 ドリアンの売買についての挿話――村長の息子のうはさ――青木の沈んだ表情……。
 三木は、それ等のことで、雪子の身辺に不幸な結婚談が起つてゐるのだらう――と想像したが、青木が、それについては決して積極的に語らうとしないので、三木も遠慮した。
 改札口の傍らに立つて二人は雪子の出て来るのを待つた。
「夜になるとバスも
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