められた。
N駅には青木が待つてゐた。青木は三木の顔を見ると同時に、
「雪子の奴は、夕方までに帰るといつて東京に出かけたのにまだ帰らない。あいつはこの頃おしやれで仕方がないよ。」といつた。
「ぢや、停車場の前で次の汽車を待たう。」
「ドリアンをこの頃は馬車馬にしてしまつてね、今も彼処に伴れて来てゐるよ。」
青木か指差した方を三木が見ると、軽さうな二輪車に、ドリアンがおとなしくつながれてゐた。――此処から青木の村までは、小川に沿うた寂しい街道をおよそ三哩もさかのぼらなければならなかつた。
二人は駅前のカフエーで、雪子を待つことにした。彼等は、互がしばらく会はぬ間に相当の飲酒家になつてゐることを笑ひながら、洋酒のグラスを挙げた。三木は、小説作家である青木の近頃の作品を様々な方面から賞揚した。
「ドリアンを売るといふ話があつたが、あれはほんたうなのか?」
「無論ほんたうなんだ。ところがね、新しい飼主のところから彼女は、何時の間にか雪子の許に戻つて来てしまふんだよ。飼主が怒つて、破談を申込んで来たのだけれど……」
「その買手は、村長の息子か?」
「うむ、雪子が最も嫌つてゐる……」
とい
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