、無数の星が閃いてゐる空を見あげてゐたのだ。

[#5字下げ]四[#「四」は中見出し]

 兄が帰ると、弟の宮田はホツとして、夕方になると嬉し気に酒を飲んだ。此間のビール箱が、あの儘庭に残つてゐるので、陽が照らないと昼間でもそれに腰かけて、よく彼はトランプに熱心な宮田の相手をした。
「今晩の御馳走は何です。」
 宮田は庭から、座敷で編物をしてゐる彼の細君に声をかけた。
「また牛肉ぢや厭?」
「牛肉だつて好いから、もう少し料理を施して呉れなけりや……」
「良ちやん、自分で料理したらいゝのに。」
 彼は、黙つて手にしたトランプの札を瞶めて居た。スペートのキングの顔を眺めてゐると、妙に父の顔が浮んだ。尤も彼の父は、鬚もないし、顔だちだつてあんなではなかつたが――彼がうつかりしてゐるうちに、宮田がスペートのジャックを棄てたので、彼はキングを降ろしマイナス十五点をしよはされた。
「親爺ぢや参つたらう。」と宮田は鼻を蠢めかせて笑つた。スペートのキングを彼等はいつでも親爺と称してゐた。
「手紙!」と細君が、不興な顔つきで云つた。直ぐに彼は、母からだと悟つた。――凡そ彼は、近親の手紙を喜ばなかつた。殊
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