沼を渡り、山へ飛び、飜っては私の腕を執り、ゼーロンが後脚で立ち上り――宙に舞い、霞みを喰《くら》いながら、変梃《へんてこ》な身振りで面白そうにロココ風の「|四人組の踊り《カドリール》」を踊っていた。綺麗な眺めだ! と思って私は震えながら荘厳な景色に見惚《みと》れた。
半鐘が微《かす》かに聞えていたが、もう意味の判別はつかなかった。然しそれは私達のカドリールの絶えざる伴奏になっていた。
「こいつは――」
不図私は吾にかえって、背中の重荷を、子守りがするように急にゆすりあげながら呟いた。――「鬼涙沼《きなだぬま》の底へ投げ込んでしまうより他に手段《てだて》はないぞ。」
絶え間もない突撃をゼーロンの臀部に加えながら、沼の底に似た森にさしかかった。樹々《きぎ》の梢《こずえ》が水底の藻《も》に見え、「水面」を仰ぐと塒《ねぐら》へ帰る烏の群が魚に見え、ゼーロンにも私にも鰓《えら》があるらしかった。――それにしても重荷のために背中の皮膚が破れて、ビリビリと焼かるるように水がしみる! 血でも流れていはしないか? と私は思った。
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(附記――経川槇雄作「マキノ氏像」は現在相
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