ず、ゼーロンの臀部《でんぶ》に、目醒しいデッドボールとなった。
 ゼーロンは後脚で空気を蹴って飛び出した。続け打ちにして、駆け抜けてしまわなければならない。私は重荷に圧《お》しつぶされそうにパクパクと四ツん這いになったまま、全速力で追い縋ると、もう次第に脚竝みをゆるめはじめたゼーロンの頤の下にくぐり抜けていきなり、えいッ! という掛け声と一緒に、飛鳥の早業《はやわざ》で跳ねあがるや、昔、大力サムソンが驢馬の顎骨を引き抜いた要領に端を発する模範的アッパー・カットの一撃を喰わした。惜しい哉、それは、ゼーロンが首を半鐘の方に振り向けた瞬間で、私の拳は空《むな》しく空を突きあげてしまった。余勢を喰って、私はあざみの花の中にもんどりを打った。然しひるまず私は息もつかずに跳《と》びあがると、昔、シャムガルが牛を殺した直突の腕を、ゼーロンの脇腹目がけて突きとおした。ゼーロンは、歯をむき出していななくと、ハードルを跳び超すみたいな駆け方でピョンピョンと波型に飛び出した。私は地をすって行く手綱を拾うと同時に、二三間の距離を曳きずられながら走った後に綺麗に鞍の上に飛び乗った。そして、突撃の陣太鼓のように乱
前へ 次へ
全33ページ中27ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング