と叫びながら、再び追いつくと、私はもう息も絶え絶えの姿であったが、阿修羅《あしゅら》になって、左右の腕でところ構わず張りたおした。
ゼーロンの蹄は、浮かれたように石ころを蹴って、また少しの先まで進んだ。
「地獄の驢馬奴!」
私は罵った。もう両腕は全然感覚を失って、肩からぶら下がっている鉛筆のようにきかなくなっていた。私は地に這《は》って、憎いゼーロンに追いつこうとした、余りの憤激でもう足腰が立たなかったから――。すると、その時、猪鼻村の方角から、にわかにけたたましい半鐘の音が捲き起った。
「やあ! 奴等はとうとう俺の姿を発見して、動員の鐘を打ちはじめたぞ!」
半鐘の音は物凄い唸りをひいて山々に反響し、擂鉢の底にとぐろを巻きながら、虚空に向って濛々《もうもう》と訴えている。――私は、眼を閉じて、ふるえる掌に石をつかんだ。私は、唇を噛み、
「このゴリアテの馬奴!」
と怒号すると同時に、哀れな右腕を風車のように回転して、コントロールをつけると、ダビデがガテのゴリアテを殺した投石具《スリング》もどきの勢いで、はっしと、ゼーロンを目がけて投げつけた石は、この必死の一投のねらい違《たが》わ
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