切りながら古い自作の「新キャンタベリイ」と題する Ballad《うまおいうた》 を、六脚韻を踏んだアイオン調で朗吟しはじめたが一向|利目《ききめ》がなかった。
「五月の朝まだきに、一片の花やかなる雲を追って、この愚かなアルキメデスの後輩にユレーカ! を叫ばしめたお前は、僕のペガサスではなかったか! 全能の愛のために、意志の上に作用する善美のために、苦悶の陶酔の裡に真理の花を探し索《もと》めんがために、エピクテート学校の体育場へ馳《は》せ参ずるストア学生の、お前は勇敢なロシナンテではなかったか!」
 私は鞍《くら》を叩《たた》きながら、将士|皆《み》な盃と剣を挙げて王に誓いたり、吾こそ王の冠の、失われたる宝石を……と、歌い続けて拳《こぶし》を振り廻したが頑強な驢馬はビクともしなかった。
 私は鞍から飛び降りると、今度は満身の力を両腕にこめて、ボルガの舟人に似た身構えで有無なく手綱をえいやと引っ張ったが、意志に添わぬ馬の力に人間の腕力なんて及ぶべくもなかった。単に私の脚が滑って、厭《いや》というほど私は額を地面に打ちつけたに過ぎなかった。私は、ぽろぽろと涙を流しながら再び鞍に戻ると、
「あ
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