メイドなどに現れて高言してゐるのを聞いても私は、聞えぬ振りを示し、一切の会話を取り交さぬのが慣ひであつた。――その作次が、私の可憐な、小さな友達である清子に結婚を申し込んでゐたといふ話を私は、ついこの頃清子の口から聞いたのである、盛んな申込みを続けてゐたが、清子の家が破産をしたといふことが公になつたら、それきり何とも云はぬやうになつた――といふ結末と一処に――。
「でもね、はじめ、うちのお父さんは、あの男は仲々真面目さうな男ぢやないか……なんて云つてゐたのよ。」
「そんなら何うして、はじめそんな話を聞いた時に直ぐと僕に云はなかつたのさ。」
「……さつき、あんなことを云つて御免なさい。あたし勿論、結婚なんてする意志はありはしないわよ。意地悪だつたのよ、あたしの方が――」
「さつき、君が云つた――あの時若しもあのまゝだつたら――といふのは、何んな風だつたの?」
「あの人の、あの頃の熱情振り! ――だけど、あれが嘘だつたとすると、あの芝居振り――はちよつと尊敬出来るやうだわ。」
「そんなに凄まじかつたの!」
私は、その詳細の説明を聞きたかつたので、何んなことを云つた? 何んな手紙を寄したの
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