とう/\自家《うち》を追ひ出されてしまつて……」
「まあ!」
「うち[#「うち」に傍点]と一緒にアメリカへ行く相談をしてゐるのよ……」
「アメリカですつて!」
「それもうち[#「うち」に傍点]が先きに立つて、煽てるやうなことまで云ふのよ、あの寂しがりやさん!」
「どうして、また、若旦那は……!」
「毎晩、毎晩、毎晩! そんな話!」
「ですからさあ、どうして!」
「…………」
「で、小さい奥さまは!」
「あたしもよ、一緒に行くつもりなのよ、お母さんは好いつて云つてゐるらしい、ヲダハラの……」
「何時……」
「それがさあ、お蝶さん――うち[#「うち」に傍点]の云ふことはさつぱり解らないのよ。今日の云ふことゝ明日の云ふことゝ恰で違ふんですもの……馬鹿見たい。」
「……」お蝶は点頭いた。
「ふざけてゐるのかと思ふと、案外の真面目で――涙もろかつたり――」
「やつぱり、その御勉強にでせうか……」
「ツーちやんは、料理の名人なんだつて、自称。アメリカへ行つてコツクを覚えるんだつてさ。」
「まあ。――それで――」
「うち[#「うち」に傍点]は……」
 母から先きに支度するだけの分を貰つた旅費が、支度
前へ 次へ
全13ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング