は何一つ取りかゝらぬうちにもうなくなりかけてゐるので、何かの口実を考へてゐるらしい――などと附け加へた。――「お調子に乗つてあの人は、ツーちやんのことまで引きうけてしまつて、内心大分弱つてゐるらしい……だけど、あの人、ツーちやんには、妙に同情してゐるらしいのよ、珍らしいことだが――」

          *

「お蝶さん、これ飲まない……」
「西洋のものなんて、とても戴けさうもありませんわ、――それこそ大変!」
「ぢやビールにしようか。あたしこの頃とてもお酒が強くなつたわよ。――カレラと一緒に毎晩飲むわよ。ところがカレラの方が弱いのさ、昼間は始終《しよつちう》あの通りなんぢやないの。」
「まあ、小さい奥さん……」
「費つたつて云つたつて、馬鹿/\しい――カグラザカとかへ通つて……」
「御苦労ですわね――まあ、お静かに。もうお眼醒めになるんぢやないでせうか?」
「それが可笑しいのよ、お蝶さん――。夜になると苦し紛れにうち[#「うち」に傍点]の人は大きな法螺を吹くもので、そして毎晩違ふことばかし云つてゐるもので、昼間は、工合が悪くつて――眠れないと薬をのんでまで、あゝして……」
「大変な
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